「英語スピーキング力」育成のために必要な2種類のメモリとは?


「記憶力」と「キャパシティー」

私は脳科学者ではないので、今日は教師経験を踏まえたあくまでも感覚のお話になってしまいますが、英語学習者を見ていて、スピーキング力向上を助ける「メモリ」には2種類あるのではないかと感じております。

メモリには、文法や単語を覚えたりする記憶力っぽいものと、複数のタスクを一度にこなすキャパシティーっぽいものがあると思っています。私は前者の記憶力っぽいものを「パソコンにさして使うUSBメモリ」にたとえ、後者を「パソコンのRAM」にたとえています。

話せないけど英語のテストでいい点数が取れるという人は、前者のメモリが大きいのでしょう。私の教えるクラスで言うと、毎日のボキャブラリーテスト(1日20単語)をするのですが、このメモリの大きさはここで証明されます。覚えることができなければ英語のスピーキングもやはり難しくはなるので、すいすい覚えられる人は得ですよね。

マルチタスクに対応する「キャパシティー」メモリ

ただ。多くの英語学習者が非常に苦戦するのが、後者のメモリだと私は思っております。スピーキングとは、待ったなしの会話の最中に、実に多くのタスクを同時にこなしているんですね。
言いたい内容を決め、
適切なボキャブラリーを取り出し、
文法的に並べ、
発音に注意し、
わかりやすいイントネーションをつけて、
相手に伝えようという気持ちで話す。
そこに非言語コミュニケーションのジャスチャーなども付け加えると、同時にこなすタスクの量は多いですね。

例えば、ボキャブラリーに集中しすぎて文法がめちゃくちゃになったり。
文法考えてたら発音がめちゃくちゃになったり。
そういったことは、私のクラスでは日常茶飯事です。そしてそれを一つひとつ丁寧に指摘しながら授業は進みます。

皆さんはお手玉やジャグリングをされてことはございますか?一つのお手玉をしている時には、その玉だけに集中していれば落とすことはないですね。そこからお手玉の数を増やしていくとどうでしょう。二つまではできても、三つ目を加えたあたりからなかなかジャグれなくなるので、一個横に置いてしまう。スピーキングの練習はこのように、お手玉の数をどんどん増やしていくことと似ているなと感じます。

お手玉の数が増えようが、すべてに集中しながら続けるために必要なのがキャパシティーメモリなのです。

スピーキングのよくある落とし穴

ちなみに、お手玉の数を増やすことができずにずっと進み続けるとどうなるか…。よく見る例を挙げてみると、コミュニケーションをするのに欠かせないお手玉を優先的に探すと、多くの場合「単語お手玉」や「基本文法お手玉」になります。例えばこの二つだけでジャグリングを続けると、簡単な文章のみを使ったスピーキングが高速で口から出てくるようになる…ただそこには、応用文法や、わかりやすい発音や、意味を伝えるイントネーションといったお手玉はないので、聞いている方としては「??」となってしまうこともありますね。

一方学習者の方も、いつも同じ文章ばかり言い続け、時々相手に伝わらずにフラストレーションがたまり、もう自分のスピーキングレベルは上がらないのではないかと、がっかりしてしまうものです。こうやって5年も10年も英語の勉強を続けてきているけど、どうして変わらないんですか?とおっしゃる生徒さんにもたくさん出会ってきました。その度に私はこの、お手玉メタファーのお話をさせていただくのです。

モチベーションとは簡単に作り出すことができず、かといって、簡単になくなってしまう、大変貴重ではかない心の材料だと私は考えます。やり方がわからず何年も過ごしてしまい、大切なモチベーションを下げてしまうのはもったいないです。

スピーキング力が上がる英語学習の方法

ではどうしたらいいのでしょうか。
私も自分が教えてきたレッスンでいつも大切にしていることがあるのですが、その一つが、このキャパシティーメモリと徹底的に向き合うことです。このメモリを大きくする学習活動には、正直かなりの時間を取っています。ここが上がれば、英語スピーキングは確実により効率的にあがっていきますし、それによってなにより学習が楽しくなります。

世界にはいろいろな方法があるのでしょうが、今日は私が行っている練習の中でも簡単にできる方法をひとつ、ご紹介いたします。それは、

20語ほどの単語が入っている文章の覚え方

です。実際の例を挙げながらやってみましょう。

次の文章を覚えていきます。
The dry rock garden of Ryoanji temple in Kyoto is a puzzle especially for foreign tourists.
さて、皆さんならどのように覚えますか?
the dry rock gardenまで覚え、次にof Ryoanji temple in Kyotoまで覚え…という感じで、多くの場合、「5~6語ずつ」覚えていくのではないでしょうか。
でもそれだと、「一回に覚えられるメモリが5~6語から増えない」のです。このキャパメモリを大きく広げていくには、「一回で覚えられる量」を増やしていくことが効果的です。なので、私は自分のレッスンでは次のように指導しています。

まず
The dry rock gardenまで覚え、次は
The dry rock garden of Ryoanji temple in Kyotoまで覚え、次は
The dry rock garden of Ryoanji temple in Kyoto is a puzzleまで覚え、次は
The dry rock garden of Ryoanji temple in Kyoto is a puzzle especially for foreign tourists.のように、【一回で覚えて口に出す単語数をどんどん増やして】いくのです。

そうすると、「ここから先が頭に入らない!」と止まってしまうところがわかります。そこが、今のご自分のキャパメモリの大きさだなとわかります。

これくらいの規模の英文を2~3文続けて覚えていくことで、この空きにくいメモリが少しずつ広がっていくのがわかるでしょう。

最初は1文覚えるのも大変だった生徒さんでも、2週間ほどでメモリが空き始めます。そしてその瞬間がたまらなく楽しいんですよね。


    PAGE TOP