海外で育つ日系の子どもたち:継承語としての日本語教育3/3


カナダ・バンクーバーに移住して20年以上になる私が、子どもの日本語学習とどう向かい合っているかーーあくまでも私の個人的な経験だけですが、書き留めております。

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海外で育つ日系の子どもたち:継承語としての日本語教育2/3はコチラ👈

救世主に抜擢したのは…

家族会議では、
「そろそろ漢字がしんどくなってきたかも」と、子ども自身も薄々感じてきていることもわかり、
「週末に早起きして学校へ通わせることがしんどくなってきたかも」と、私たち親自身も薄々感じてきていることもわかったのですが、

ランドセルの約束

にしがみつくように、何かできることはないか…もう少しだけ考えてみることにしました。

漢字経験値を上げる。

そして、どうせやるなら子どもの興味のあるもので。

なんだろう

なんだろう

・・・

そして思い切りました。

漫画だ。

そう、漫画に助けを求めようという案に至りました。幸い、日本語学校の図書館にはおびただしい数の本が蔵書されており、その中にはものすごい数の漫画本もありました。日本で普通に育った私の耳には、「漫画ばっかり読んでないで本を読みなさい」というフレーズがこだましていましたが、ここは、なりふりかまわないことに。むしろ、今の状況をどうにか打破できないかとすがる思いで漫画に目を向けたのです。

漫画と漢字経験値

私自身漫画好きな子どもだったので、まずは昔読んでいた漫画を図書館で探し、新たな視点で分析をしました。

どんなキャラか

どんな設定か

どんな話か

まずはできるだけ日常に近いもの、できるだけ子どもの年齢に近いキャラから導入することで、日常生活で日本の同年代の子どもたちがどのような日本語を話しているのかを伝えたいと思いました。

またこういった視点で改めて分析してみると、漫画の吹き出し内のセリフには漢字に読み仮名がふられてあるのに気づきます。これによって、本側からしてみると「学年を超えて幅広い読者層を獲得」でき、読者側からしてみると「どの学年でもある程度読み進める」ことができる仕組みにもなっているのだと気づきました。

「一回自分で読んでごらん」と漫画を手渡したものの、「ママ、これなんて読むの?」の連発だったので、最初の一冊目は正直、毎ページ「読み聞かせ」ました。横からページを覗かせながら、全ての吹き出しを音読です。

でもそれを2冊ほど続けると、自分で目で見ながら音を聞き続けた結果、よく出てくる漢字がすぐに読めるようにもなってきたのです。最初に読めるようになったかんじは「恋」とか「涙」なんだけども。

この子たちが知らないこと・知りたいこと

こうして漢字経験値が少ないところからだんだん漢字が読めるようになった感覚が子どもには面白かったようで、どんどん自分で読み進めてくれるようになりました。

まるで、レールに乗っけたらあとはある程度勝手に走ってくれる電車のように。

ウチの子ども達にとっての漫画活動は、漢字経験値を上げるだけではなく、単語・言い回し経験値もぐんっと引き上げるきっかけとなってくれたように思います。教科書には出てこない、けれども日本の子どもたちがよく使っている言葉を覚えるようになりました。

するとここからは、説明と解説の嵐です。

「ママ、『しつこい』ってどういうこと?」

「『せつない』って?」

「『ツンデレ』って?」

また、漫画に出てくる日本の学校の教室の様子を見ていたので、実際に日本の小学校に体験入学した時には、廊下の片側だけに教室が並んでいることや、全校集会が長くて退屈なことや、掃除の時間に男子がホウキでちゃんばらごっこするのを見て、「ママ、漫画の通りだった!!」と大興奮していました。

そうか。

私自身にとっても当たり前なこういったことをこの子たちは知らないんだ。

具体的にそう感じた瞬間、漫画に出てくる1コマ1コマが尊くなりました。

あとは、何が「面白い」ことなのか、どうやったら「ツッコミ」ができるのか、その「タイミング」などにも興味を持ち始め、学年が上がってからはM1グランプリを欠かさずチェックするようになったものです。また「お笑いがわかる」ということが、日本語使用者として本人にある程度の自信を与えたようにも思います。

きれいごとだけでは続かなかった

さて、日本語学校に話を戻しましょう。

漫画導入から半年〜1年後には、教科書に出てくる漢字のほとんどは「見たことある」というレベルになっていたので、漢字が大きな妨げと感じることはほとんどなくなったようです。また幸い、日本語学校のクラスメートも漫画を読んでいたので、その話ができることも継続のモチベーションにつながりました。

ウチの子どもに限ってですが、

ランドセルの約束

だけでは絶対に続かなかった、継承語学習。

もっと上手くやっておられるご家庭もあります。もっと日本語が上手な海外生まれの子どもさんもいらっしゃいます。

ただ、私自身も8年かけて経験したことを踏まえると、きっときっとどこのご家庭も、

ご家族の大きな支えと

子ども達の大きな努力で

継承語学習は継続されている

のではないかな、と思うのです。

日英バイリンガルって自動的になれる?

私自身はカナダで英語コミュニケーション力を育成する会社を運営しているのですが、

私が教える学生の多くが、私の子どもたちのことを「カナダで生まれて英語も日本語もペラペラでいいな〜」とおっしゃいます。そして私は、カナダで生まれたからって、自動的に継承語がペラペラになるわけではないんだよ、とお伝えしてきています。

裏にはけっこうドロドロした裏物語があるんだよ、と。

その昔、私が現地の日本語学校で勤務し始めた際に、その時の校長先生がおっしゃった言葉が今も心に焼き付いています。

お子様の日本語学習を、

日本語学校は全力で支えます。

ただ、

ご家族の多大なご理解とご協力が

絶対に不可欠です。

今改めて、その言葉が深く胸に刺さります。

継承語教育の程度はご家庭それぞれ

最後に。

似たような境遇のご家族が、実際お子様に「どれくらいの日本語力」を残したいと思っておられるかは、人それぞれだと思います。それぞれのご家庭の考え方、将来のご予定、お子様の性格、などなど。変数Xはたくさんあります。ですのでここで書いたことはあくまでも一個人の一例だとお考えいただけると幸いです。

いろいろなことが面倒だな…と思ったことは何百回とあります。日本語学校の先輩ママさんたちに相談したことも何度もあります。上手くいかなかったことも数えきれません。結果がどう出るかは、子どもが育ってみてからでないと実際わからない、というのも、空恐ろしいところです。ですので、ここに書いたことが必ずしもいいことだというわけでは決してありません。

子どもたちの「今」は「今」だけなんだなと思いながら、歩いてきただけだとも思います。

これを読んでくださった方が少しでも元気になってくだされば幸いです。

・・・・・・・・・

ちなみに漫画をきっかけにうちの場合は、アニメに興味を持ち、YouTubeに興味を持ち、ニコニコ動画に興味を持ち、歌い手に興味を持ち、今に至ります。

「歌い手」さんと呼ばれる方の歌は本当に難しく、

「ママ、『大衆性』って何?」

「『右倣う』って?」

「『警鐘』って?」

「『損得と体裁の勘定』って?」

「『有害な評論も見え透いた同情も聞きたくはないな』って?」

言葉と知識の学習は、まだまだ続いていくのです。


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