海外で育つ日系の子どもたち:継承語としての日本語教育2/3


カナダ・バンクーバーに移住して20年以上になる私が、子どもの日本語学習とどう向かい合っているかーーあくまでも私の個人的な経験だけですが、書き留めております。

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天下分け目の3年生

なぜ天下分け目かというと。現地の日本語学校で導入され始める「漢字の数」がこの辺りから「あ、増えてきたな…」と感じたからです。毎週教科書を読ませて宿題をさせてても、それだけでは漢字学習に「ついていけない」と明らかに感じたのもこの頃です。

確かに、新しい漢字は教科書で紹介されます。その物語の中に漢字が入っていて、それを読めるようになるのが目的です。じゃあ教科書をちゃんと読んでいればいいではないのか?と思うかもしれません。私も正直、そう思っていました。

けれども無数の小さい壁にぶつかり始めたのです…「経験値の違い」です。

日本の子どもとの「漢字経験値の違い」とは?

まず、本トピックの1話目でお話しした「単語経験値=聞いたことがある言葉」について、もう少し掘り下げてみます。

私は【家庭では日本語をほとんど使わない子どもたち】に日本語を教えていたのですが、できればこの子たちにも同年齢の日本の子どもたちが知っているであろう単語をなるべくあげたい、と思い、(日本では通常小学校1年生の後半に取り組む)光村図書『こくご一下』の『くじらぐも』(なかがわりえこ作)を開いて、単語をピックアップしようとしたことがあります。

でも正直ギブアップしました。

「たいそう」
「あらわれました」
「のびたり ちぢんだり」
「しんこきゅう」
「かけあし」
「うんどうじょう」
「とまれの あいず」
・・・

日本で育っている子どもたちはそのほとんどの言葉を幼稚園の時に聞いていることでしょう。けれどもこちらの子どもたち、それも、家庭で日本語をほとんど使わない子どもたちにとって、これらの言葉は極めて難しかったのです。

「単語経験値」=これまで聞いたことがあり耳慣れしている単語が多いかどうか。

さて、小学校3年生になったうちの子がぶち当たった「漢字経験値」もこれによく似ています。明らかに、漢字経験値が低い・・・

街中の看板やテレビのキャプションなどでなんとなくでもいいから目に入ったことのある漢字は、教科書で見た時にも「あーこれ、こういう風に読むんだ」「あーこれ、こういう意味だったんだ」と、漢字学習の『第二段階』から始められるものです。

けれどもうちの子の場合(そしておそらく多くのクラスメートにとっても)、ほとんどの漢字が「初めまして」だったので、教科書を読んでいても、漢字ドリルをしていても、
漢字=意味を持った記号
漢字=日本語という言語の中で音として読むことができる
漢字=対応する意味を伝える
漢字=自分がそれを使った時にも対応する意味を伝えることができる

という「言語」としての働きが薄れてしまい、単なる「絵」の反復練習になってしまいそうになる・・・そんなことを感じ始めたのが、小学校3年生くらいでした。

忙しくなる子どもたち

現地の日本語学校には、多くの子が2歳くらいから通い始めます。そして、2歳から毎週毎週通ってきた子どもたちが、日本語学校をやめてしまう「山場」のようなものがあります。

私が見てきた限りだと、

・小学校入学時(つまり小学校自体に入学しない)
・小学校3〜4年生あたり
・中学校入学時(つまり中学校自体に入学しない)

が多かったように思います。

小学校3〜4年生あたりでやめる子がぽろぽろと出てくる多くの理由が、

・現地の学校の勉強が大変になってきた
・スポーツや音楽などのお稽古事が大変になってきた

というものがあるかと思います。低学年から続けてきたホッケーでレギュラーになり、そちらで時間が取られていくとか、バイオリンでレベルがあがり、そちらの練習で時間が取られるとか。3〜4年生の子どもたちって本当にいろいろと忙しくなってくるんだな、と感じたものです。

そしてもう一つの大きな理由が、日本語学習それ自体にまつわるもの。もう、単語が覚えられない。もう、漢字がついていけない。私の周りの多くのご家族がそのようにおっしゃっていました。そして同様の波は、うちにも訪れました。

「ランドセルを買ってあげるから6年生までは頑張ろうね」

と言って始めた日本語学校生活でしたが、寄せる漢字の波にランドセルは流され気味・・・ここでやめるか。なんとか続けるか。

第2回家族会議の時間です。


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